採用市場では有効求人倍率が1.28倍(2024年平均)と高い水準が続いており、多くの企業が人材確保に課題を抱えています。
その一方で、国内のSNS利用率は83.2%に達しており、若年層においてはさらに高い利用率となっています。
この現状を踏まえ、多くの企業が採用チャネルとして「SNS採用(ソーシャルリクルーティング)」に注目しています。本記事では、主要6媒体における企業の成功事例や、失敗を防ぐための具体的な対策、さらには法務関連のチェックリストまでを網羅的に解説します。
※参照元:総務省「令和5年通信利用動向調査」
目次
SNS採用とは
「SNS採用」とは、企業がX(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどの公式SNSアカウントを用いて、企業の認知拡大から応募、さらには選考中のフォローまでを一貫して行う採用活動全般を指します。
求人広告や人材紹介とは異なり、写真や動画、ライブ配信といった多様なコンテンツを通じて、候補者と双方向のコミュニケーションを図れる点が大きな特徴です。
Z世代は就職活動でSNSを活用している
若年層、いわゆるZ世代にとって、SNSは日常的な情報収集ツールです。企業の採用アカウントをフォローし、社風や働きがいを判断する材料とすることは、もはや当たり前の行動といえるでしょう。
実際に、多くの調査で企業のSNS採用導入率は年々増加しており、SNS経由の応募者数も増加傾向にあると報告されています。以上の点から、SNSは今後の採用活動において、さらに重要な役割を担っていくと考えられます。
採用の従来手法との比較
SNS採用は、従来の採用手法と比較して、特に「コスト」と「情報発信の質」の面で利点があります。
求人媒体への出稿や人材紹介には多額の費用がかかる場合がありますが、SNSは基本的に無料でアカウントを開設・運用できます。
また、写真や動画を用いることで、テキストだけでは伝わりにくい社風や職場の雰囲気を直感的に伝えやすいという強みも持ち合わせています。
SNS採用のメリット・デメリット
SNSで採用を行う5つのメリット
SNSで採用を行うメリットは主に以下の5つです。
- 低コストでの運用が可能
- 高い拡散力による認知拡大
- 企業ブランディングの強化
- 候補者との双方向コミュニケーション
- 入社後のミスマッチ低減と定着率向上
それぞれ詳しく解説していきます。
低コストでの運用が可能
アカウントの開設や投稿は無料で行えるため、広告を利用しない限り、人件費のみで運用を開始できます。これにより、従来の手法に比べて応募単価を抑えられる可能性があります。
高い拡散力による認知拡大
Xのリポスト機能などを通じて、投稿がフォロワー以外のユーザーにも広く拡散される可能性があります。魅力的なコンテンツは、時に企業の予想を超える範囲まで広がり、認知度向上に大きく貢献します。
企業ブランディングの強化
継続的な情報発信を通じて、企業の理念や価値観、働く人々の魅力を伝えることで、採用市場における独自のブランドイメージを構築できます。これは、採用力強化だけでなく、企業のファンを増やすことにもつながります。
候補者との双方向コミュニケーション
コメントやダイレクトメッセージ(DM)、ライブ配信などを通じて、候補者と直接対話できる点も大きなメリットです。候補者の疑問や不安をリアルタイムで解消することで、志望度を高める効果が期待できます。
入社後のミスマッチ低減と定着率向上
ありのままの社風や働き方を事前に伝えることで、候補者は入社後の働き方を具体的にイメージできます。これにより、「思っていたのと違った」という入社後のギャップを減らし、定着率の向上につながると考えられます。
SNS採用の主なデメリットと対策
SNSでの採用はメリットだけでなく、デメリットももちろん存在します。主なデメリットは次の3つです。
- 継続的な運用に工数がかかる
- 効果測定の難しさ
- 炎上リスクへの備えが必須
継続的な運用に工数がかかる
コンテンツの企画、制作、投稿、コメント対応、効果分析など、SNS運用には多くの工数がかかります。
対策として、事前に投稿カレンダーを作成して計画的に進めたり、一部の作業を外部の専門業者に委託したりすることが考えられます。
効果測定の難しさ
「どの投稿が応募に結びついたか」を正確に測定するのは容易ではありません。
対策として、「プロフィール欄のURLクリック数」や「採用サイトへの流入数」など、追跡しやすい具体的な指標(KPI)を事前に設定し、その数値を追いかけることが重要です。
炎上リスクへの備えが必須
不適切な投稿や対応が、企業の評判を大きく損なう「炎上」につながるリスクが常に伴います。
対策として、投稿前のダブルチェック体制の構築や、緊急時の対応フローを定めたガイドラインを整備しておくことが不可欠です。
Instagramの成功事例5社
Instagramは写真やリール(短尺動画)といったビジュアルコンテンツが中心です。企業文化や職場の雰囲気を直感的に伝えるのに適しています。
株式会社ONE
社員の日常や入社したきっかけのインタビューなど、親しみやすいコンテンツを発信。投稿した過去のストーリーはハイライトで整理し、ユーザーがチェックしやすいように工夫しています。
※参照元:株式会社ONE新卒採用
株式会社サイバーエージェント
就活生をターゲットに、リール投稿を積極的に行っています。また内定者や新卒1年目を紹介し、実際に入社後の姿をイメージさせることができています。
※参照元:サイバーエージェント新卒採用【公式】
株式会社山善
専門商社としての事業内容を、現場で活躍する社員を通じて分かりやすく紹介。「#山善のリアル」というタグで社員同士の対談形式で企業の多面的な魅力を伝えています。
※参照元:【公式】株式会社山善 採用担当
JALスカイ
グランドスタッフの採用に特化したアカウントを運用し、制服姿の社員や空港の裏側などを発信しています。フォロワーは1.3万人を超え、説明会告知投稿にもいいねを非常に多く獲得できています。
ユニリーバ・ジャパン
企業ブランドのカラーで統一されたデザイン性の高いフィード投稿と、社員がリアルな声で語るインスタライブを組み合わせています。これにより、企業の魅力と働きやすさを両面から伝え、候補者の企業理解を深めることに成功しています。
X(旧Twitter)成功事例5社
Xはリアルタイム性と拡散力が最大の特徴。イベントの告知や、企業の最新ニュースを素早く届けるのに適しています。
新光重機株式会社
建設機械のレンタル・販売を行う新光重機は、自社の重機と時事ネタを組み合わせたユニークな画像投稿で話題を集めました。堅いと思われがちな業界イメージを覆す親しみやすい投稿が、企業の認知度向上と応募数の増加に貢献しました。
※参照元:新光重機株式会社 公式Xアカウント
湘南美容クリニック
同クリニックの採用アカウントは、匿名で質問を送れる「質問箱」を活用し、候補者からの疑問に丁寧に回答する姿勢を見せています。これにより、候補者との心理的な距離を縮め、内定承諾率の向上に結びつけていると考えられます。
※参照元:SBCメディカルグループ(湘南美容クリニック) 新卒採用担当 公式Xアカウント
株式会社ニコン
カメラ・光学機器メーカーのニコンは、合同説明会、セミナーの告知といったものから就活に活きるアドバイスまで様々な内容を投稿しています。
テキストだけの投稿だけでなく画像を用いて視覚的にもわかりやすく発信している点が特徴的です。
※参照元:ニコン 採用担当 公式Xアカウント
株式会社集英社
出版社の集英社は、新人編集者の日常や仕事への想いを、外部ブログサービス「note」で連載し、その更新情報をXで共有しました。
社員のリアルな声を届けることで多くの共感を呼び、Xアカウントのフォロワーを大幅に増やすことに成功した事例です。
※参照元:集英社 採用担当 公式Xアカウント
読売新聞社
新卒の内定者が主体となり、「#新人記者奮闘記」「 #記者2年目」というハッシュタグで自身の就職活動の経験談や、後輩へのアドバイスを発信するアカウントを運用。学生に近い目線でのリアルな情報発信が、多くの共感を呼んでいます。
※参照元:読売新聞社 採用
TikTok 成功事例5社
短尺動画が中心で、特にZ世代へのリーチに強いプラットフォームです。トレンドの音源やエフェクトを活用した、エンタメ性の高いコンテンツが人気です。
三和交通株式会社
タクシー会社の三和交通は、乗務員が制服姿でキレのあるダンスを披露する動画を投稿。そのユニークな内容は多くのユーザーの注目を集め、初投稿で260万回再生を記録しました。シリーズ化によりファンを獲得し、求人広告費を大幅に削減しながら、応募につなげることができているそうです。
※参照元:三和交通@TAXI会社
大京警備保障株式会社
警備員の日常業務を、コミカルな演出やテンポの良い編集で紹介。仕事の厳しさだけでなく、現場の明るい雰囲気や人間関係の良さを伝えることで、業界のイメージアップにも貢献しています。
※参照元:大京警備保障株式会社
三陽工業株式会社
クイズを紹介するコンテンツや最新の流行を踏まえたコンテンツを多く発信。働く姿とは異なる普段の姿を見ることができます。
※参照元:三陽工業株式会社【公式】TikTok
株式会社DYM
“#同期が可愛すぎる”というハッシュタグでショートストーリーで日常を紹介。癒やされる日常をうつしだし、求職者を一緒に働きたいという思いにさせています。
※参照元:会社の同期が可愛すぎる。
株式会社これから
ECコンサルティングという専門的な事業内容を、社員による寸劇や解説動画で分かりやすく紹介。「#ECあるある」などの企画で、業界知識がない人でも楽しめるコンテンツを制作しています。
※参照元:株式会社これから【公式】
LINE 成功事例5社
圧倒的な国内利用者数を誇るコミュニケーションツール。友だち追加後は、1対1のクローズドな環境で、候補者に合わせた丁寧なフォローが可能です。
株式会社キーワードマーケティング
Lineでは採用イベントなどから獲得した候補者を採用まで育てていくためのコンテンツが豊富に設計されています。リッチメニューからカジュアル面談を申し込むことができ候補者のエンゲージメントを高めることができています。
日本マクドナルド株式会社
アルバイト採用において、全国の店舗にLINEで応募できるQRコードを掲示しました。応募者が使い慣れたツールで手軽に応募できるようにしたことで、応募のハードルを下げ、母集団形成に貢献している事例です。この施策により、全体のアルバイトの応募数は30%も増加したそうです。
※参照元:応募者30%増!マクドナルドが始めた「バイト募集専用」のLINEアカウントの効果|LINE for Business
日本生命保険相互会社
就職活動の情報提供に特化したアカウントを開設し、多くの学生を集めています。学生が情報を定期的に受け取ることができ、また応募意欲が高まった場合、採用ページに移動できるような仕組みが整えられています。
※参照元:【新卒採用】日本生命保険|LINE
警視庁
若年層へのアプローチとして、LINEオープンチャットなどを活用した情報発信を行っています。仕事の魅力や採用試験の情報を動画で伝えることで、従来の広報手法では届きにくかった層への認知拡大を図っています。
株式会社アスナロ
LINE運用ツールを導入し、求職者へのアンケートやニーズに合わせたセグメント配信を実施。応募率50%向上を実現するなど、一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションで求職者との関係構築を円滑化しています。
YouTube 成功事例4選
YouTubeは、比較的長い尺の動画で、企業の理念や事業内容、社員の専門性などを深く伝えるのに適しています。
株式会社サイバーエージェント
新卒採用向けのYouTubeチャンネルを運営し、社員対談や就活対策、職場ツアーなど、多岐にわたるコンテンツを配信しています。
チャンネル登録者数は1万人にのぼり、採用ブランディングと母集団形成に大きく貢献している事例です。
MIC株式会社
印刷工場の内部を詳しく紹介する「工場ツアー」や、社員インタビューを組み合わせた動画を公開しています。普段は見ることのできない専門的な現場をオープンにすることで、企業の技術力と透明性をアピールし、学生の興味を惹きつけています。
※参照元:MIC株式会社 公式チャンネル
サイボウズ株式会社
会社説明や各職種の紹介動画を積極的に配信しています。これまでに公開した47本の動画は、総再生数5.5万回を突破しました。
これらの動画を通じて、学生の皆さんが主体的に企業理解を深めるきっかけを提供しています。
※参照元:サイボウズ採用公式チャンネル
株式会社オープンハウス
採用に特化したオープンハウス採用チャンネルを運営しています。オープンハウスで働く人々のインタビューを豊富に配信しており、オープンハウスに入社した後の働き方がとても伝わる内容になっています。
一万再生を超える動画も複数あり、多くの求職者にアプローチすることができています。
※参照元:オープンハウス採用チャンネル
Facebook成功事例5選
Facebookは、実名登録制という特性から、ビジネス関連の情報発信や、信頼性が求められるコミュニケーションに適しています。
ソフトバンク株式会社
新卒向けと中途向けのFacebookページを個別に運用し、それぞれのターゲットに合わせた情報発信を最適化しています。中途採用ページでは技術領域ごとの求人広告を配信するなど、戦略的な活用が見られます。
スターバックス コーヒー ジャパン株式会社
“バリスタの1日”といった、仕事内容が伝わる動画コンテンツを配信しています。働くパートナー(従業員)のリアルな姿を発信することで、仕事への興味を喚起し、応募につなげている事例です。
※参照元:Starbucks Partners Japan 公式Facebookページ
国土交通省
堅いイメージを払拭するため、職員へのインタビューや省内イベントの様子などを定期的に配信しています。説明会の告知を広告で拡散するなど、Facebookを広報ツールとして積極的に活用しています。
※参照元:国土交通省 採用Facebookページ
ALM Beauty Lounge
美容師採用において、テキスト情報を極力減らし、写真などのビジュアルを重視した画像広告を配信しています。商材やサービスの魅力が直感的に伝わるようなクリエイティブが特徴です。
※参照元:タイミーラボ
ハウスコム株式会社
Facebookだけでなく、TwitterやYouTubeなど複数のSNSを連携させています。各メディアの特性を活かして情報を発信し、採用ページへの導線を複数構築することで、応募機会の最大化を図っています。
※参照元:HR-Hack
SNS採用における失敗パターンとその対策
成功事例の裏には、多くの失敗パターンが存在します。ここでは、よくある失敗とその対策を解説します。
- 失敗①:担当者任せで更新が停止してしまう
特定の担当者に運用を任せきりにすると、その担当者が異動や退職をした際に更新が完全に止まってしまうことがあります。
対策として、複数人でのチーム体制を組み、投稿計画をカレンダーなどで共有・可視化することが重要です。
- 失敗②:ガイドラインがなく炎上してしまう
投稿内容の基準が曖昧なまま運用すると、意図せず不適切な投稿をしてしまい、炎上につながるリスクがあります。
対策として、投稿前に複数人で内容を確認する承認フローを設け、遵守すべきガイドラインを文書で定めておくことが不可欠です。
- 失敗③:応募への導線が複雑で離脱される
SNSから採用サイトへ誘導しても、応募フォームがどこにあるか分かりにくいなど、導線が複雑だと候補者は途中で離脱してしまいます。
対策として、プロフィール欄のリンクから、数クリック以内で応募が完了できるように導線をシンプルに設計しましょう。
- 失敗④:成果指標が曖昧で効果が不明
“フォロワー数”だけを追いかけても、それが応募に結びつかなければ採用活動としては成功とはいえません。
対策として、「採用サイトへの遷移率」や「1応募あたりのコスト」など、採用成果に直結するKPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に効果を測定することが重要です。
法務・個人情報・著作権でチェックすべきこと
投稿前の確認事項
社員など、人物が映り込む場合は、必ず本人から肖像権に関する同意を得るようにしましょう。
また使用する画像やBGMが、商用利用可能なライセンスであるかを確認してください。特に、TikTokやInstagramリールでトレンドの楽曲を使用する際は、企業の商用アカウントでの利用が許可されているかを必ず確認するようにしましょう。
運用中の注意点
コメントやDMで個人情報を取得する際は、その利用目的を必ず明示し、取得後は速やかに安全な管理システムへ移管しましょう。SNS上に個人情報を長期間放置しないように注意しましょう。
他者の投稿を引用・紹介する際は、著作権法で定められた「引用」のルールを遵守し、必ず出典を明記するようにしましょう。
炎上への備え
否定的なコメントや誤解を招く投稿が発見された場合の、報告フローと対応方針を事前に定めておきましょう。事実確認を最優先し、憶測での反論や沈黙は避け、必要であれば、迅速かつ誠実に一次報告を行いましょう。
運用代行サービスの活用もおすすめ
SNS採用を検討される際は運用体制を整え、本記事で紹介した事例をもとにコンテンツを作成してみてください。リソースが不足し社内の体制を整えることが難しい、また炎上リスクが心配な方は、自社だけで完結させるのではなく運用代行サービスの活用もおすすめです。
本サイトでは人気の運用代行サービス7社を徹底比較しています。運用代行サービスをお探しの方はぜひ参考にしてみてくださいね。