近年、有効求人倍率は高い水準で推移しており、新卒の求人倍率は1.71倍ともいわれています。
採用競争が激化する中で、従来の求人広告だけでは十分な母集団を確保することが難しくなっています。
このような状況で、新たな採用チャネルとして「YouTube」の活用が注目されています。Z世代と呼ばれる若年層にとって、動画は主要な情報源です。本記事では、YouTube採用のメリット・デメリットから、具体的な導入ステップ、成功事例までを詳しく解説します。
目次
採用市場の変化と動画活用の必然性
少子化を背景とした労働人口の減少により、多くの業界で人材不足が深刻化しています。企業の採用意欲に対して求職者数が追いつかず、売り手市場が続いています。そのため、企業は候補者から「選ばれる」ための工夫が不可欠となり、従来の画一的な採用手法だけでは立ち行かなくなっているのが現状です。
ICT総研の調査によると、日本の20代におけるYouTubeの利用率は97.5%に達しています
Z世代にとって、テキストや写真だけでなく、動画で情報を得ることはごく自然な行為です。
企業の理念や社風といった、文字だけでは伝わりにくい情報を届ける上で、動画は新しい採用手段として非常に有効といえるでしょう。
※参照元:ICT総研「2023年度 SNS利用動向に関する調査」
採用活動のオンライン化と動画コンテンツの定着
コロナ禍を機に、採用活動のオンライン化は急速に進み、今や標準的な手法として定着しました。
オンラインでの会社説明会や面接が一般化し、それに伴い動画コンテンツの重要性も増しています。動画は、地理的な制約なく全国の候補者にアプローチできるだけでなく、一度制作すれば繰り返し活用できるというメリットもあります。
採用プロセス | 従来の方法 | 動画化による主なメリット |
---|---|---|
会社説明会 | 会場での集合開催 | 開催コストの削減、遠方の候補者も参加可能 |
OB・OG訪問 | 対面での個別訪問 | 日程調整の効率化、地理的制約の解消 |
インターンシップ | 対面での集合研修 | 事前説明の効率化、情報の均質化 |
内定者フォロー | 対面での面談や懇親会 | 内定ブルーの解消、継続的なエンゲージメント向上 |
YouTube採用とは? 仕組みと他手法との比較
「YouTube採用」とは、自社の公式チャンネルに採用関連の動画を掲載し、動画の概要欄などから採用サイトや応募フォームへ誘導する採用手法です。
動画を通じて、求人広告だけでは伝えきれない企業のリアルな魅力を発信し、候補者の理解度と志望度を高めることを目的とします。
従来媒体(求人広告・合同説明会)との違い
YouTubeは、一度投稿した動画が資産として蓄積されていく「ストック型」のメディアです。時間が経過しても検索や関連動画から視聴されるため、長期的な効果が期待できます。
一方、求人広告は掲載期間が終了すると露出がなくなり、合同説明会は当日限りのイベントです。情報量や表現の自由度においても、動画は圧倒的な強みを持ちます。
比較軸 | YouTube | 求人広告 | 合同説明会 |
---|---|---|---|
メディア特性 | ストック型(資産になる) | フロー型(期間限定) | スポット型(1日限り) |
情報量 | 非常に多い(動画) | 中程度(テキスト・写真) | 多い(対面・資料) |
費用モデル | 主に制作費 | 掲載課金 | 出展料 |
他の動画SNSとの使い分け
採用で活用される主な動画SNSには、YouTubeの他にTikTokやInstagramリールがあります。それぞれの特性を理解し、戦略的に使い分けることが重要です。
- YouTube
比較的長い尺の動画に適しており、検索からの流入も見込めます。企業の理念や詳細な業務内容をじっくり伝えたい場合に有効です。
- TikTok / Instagramリール
短尺動画が中心で、拡散力が高いのが特徴です。まずは広く認知を獲得したい場合や、企業の日常を切り取って親近感を醸成したい場合に適しています。例えば、TikTokやリールで興味を引きつける短いティザー動画を配信し、「続きはYouTube本編で」と誘導するような導線設計も効果的です。
YouTube採用の4つのメリット
① 社風や社員のリアルを直感的に伝えられる
動画は、文字や写真だけでは伝わりにくい職場の「空気感」を伝えるのに最適なツールです。オフィスツアーや社員同士の座談会の様子を配信することで、候補者はその企業で働く日常を具体的にイメージできます。これにより、入社後の「思っていたのと違った」というミスマッチを減らし、内定辞退率や早期離職率の低減につながる可能性があります。
② 転職潜在層にもリーチできる
YouTubeは非常に多くの人が利用しており、今すぐの転職を考えていない「転職潜在層」にもアプローチできる可能性があります。「関連動画」や「おすすめ」に表示されることで、これまで自社を知らなかった候補者との偶発的な出会いも期待できます。実際に、採用動画経由の応募者には、求人サイトに登録していないユーザーも多いという事例があります。
③ 長期的な資産となり、採用コストの削減につながる
制作した動画は、削除しない限りYouTube上に残り続けます。公開から時間が経っても、検索などを通じて視聴され、応募につながる可能性があるため、長期的な視点で見ると費用対効果に優れた施策といえます。
④ 採用ブランディングと企業認知度の向上
質の高い採用動画は、採用候補者だけでなく、顧客や取引先など幅広い層に視聴される可能性があります。動画を通じて企業のビジョンや技術力を発信することは、採用ブランディングの強化と、企業全体の認知度向上にも寄与します。実際に、採用動画の公開後に「社名+採用」での検索数が大きく増加したという事例も報告されています。
YouTube採用で発生しやすい3つの課題と対策
① 継続的な運用リソースの不足
YouTubeチャンネルの運用には、「企画」「撮影」「編集」「公開」「分析」といった一連のプロセスが必要であり、一本の動画制作に多くの時間がかかります。兼任担当者では負荷が大きく、更新が滞ってしまうケースも少なくありません。
対策としては、事前にコンテンツ計画を立て、撮影や編集といった一部の作業を外部に委託することも有効な選択肢です。
② 炎上やネガティブコメントのリスク
動画は拡散力が高いため、内容に不適切な表現があったり、社外秘の情報が映り込んでしまったりすると、炎上につながるリスクがあります。炎上は企業のブランドイメージを大きく損ない、採用活動にも深刻な影響を及ぼしかねません。
投稿前の複数人による内容確認や、コメント欄の定期的な監視、緊急時の対応フローを定めたガイドラインの整備が不可欠です。
③ 効果測定の難しさ
「再生回数が多いから、良い採用動画だ」とは一概には言えません。再生回数が多くても、応募に全くつながらないケースもあります。
動画の効果を正確に測定するためには、「視聴維持率」や概要欄の「クリック率」、「応募転換率」といった複数の指標を組み合わせて分析する必要があります。これらのKPIを設計し、定期的に評価する体制を整えることが重要です。
導入ステップ:準備から改善サイクルまで
Step1:目的とペルソナ(ターゲット像)の設定
まず、「なぜYouTube採用を行うのか」という目的を明確にします。例えば、「応募母集団の拡大」なのか、「内定辞退率の低減」なのかによって、制作すべき動画の内容は変わってきます。次に、採用したい人物像である「ペルソナ」を、年齢、価値観、情報収集のスタイルなどを含めて具体的に設定しましょう。
Step2:コンテンツの企画
目的とペルソナが定まったら、具体的な動画の企画を立てます。候補者の求める情報に合わせて、以下のような動画フォーマットを組み合わせるのが効果的です。
動画フォーマット | 推奨される動画尺 | 主な目的 |
---|---|---|
社員の1日密着 | 約5〜7分 | リアルな業務内容や働き方の理解促進 |
社員座談会 | 約10〜15分 | 企業文化や人間関係の魅力訴求 |
社長メッセージ | 約3〜5分 | 企業のビジョンや理念の共有 |
オフィスツアー | 約3〜5分 | 働く環境や設備の紹介 |
Step3:動画の制作(撮影・編集)
必ずしも高価な機材は必要ありません。最近のスマートフォンと、手ブレを防ぐ三脚があれば、十分に質の高い撮影が可能です。
ただし、音声は動画の品質を大きく左右するため、聞き取りやすい音声を録音できる外部マイクを用意することをおすすめします。編集では、テロップやBGMを効果的に使い、無音環境でも内容が伝わるように字幕を入れると親切です。
Step4:動画の公開と拡散
動画を公開する際は、クリックしたくなるような魅力的な「サムネイル」と「タイトル」を設定することが非常に重要です。公開後は、企業の公式X(旧Twitter)や社員個人のSNSでシェアしてもらうなど、積極的に拡散しましょう。他のSNS向けに短いティザー動画を作成し、本編のYouTube動画へ誘導する方法も効果的です。
Step5:分析と改善
動画を公開したら、YouTube Studioの「アナリティクス」機能を活用して効果を測定します。特に「視聴維持率」「クリック率」「視聴者あたりの平均再生時間」などの指標を定期的に確認しましょう。数値が伸び悩んでいる場合は、その原因を分析し、「冒頭の構成を変えてみる」「サムネイルのデザインを改善する」といった次の施策に活かすPDCAサイクルを回すことが成功の鍵です。
業界別 YouTube採用成功事例
株式会社サイバーエージェント
新卒採用向けのYouTubeチャンネルを運営し、社員対談や就活対策、職場ツアーなど、多岐にわたるコンテンツを配信しています。
チャンネル登録者数は1万人にのぼり、採用ブランディングと母集団形成に大きく貢献している事例です。
MIC株式会社
印刷工場の内部を詳しく紹介する「工場ツアー」や、社員インタビューを組み合わせた動画を公開しています。普段は見ることのできない専門的な現場をオープンにすることで、企業の技術力と透明性をアピールし、学生の興味を惹きつけています。
※参照元:MIC株式会社 公式チャンネル
サイボウズ株式会社
会社説明や各職種の紹介動画を積極的に配信しています。これまでに公開した47本の動画は、総再生数5.5万回を突破しました。
これらの動画を通じて、学生の皆さんが主体的に企業理解を深めるきっかけを提供しています。
※参照元:サイボウズ採用公式チャンネル
株式会社オープンハウス
採用に特化したオープンハウス採用チャンネルを運営しています。オープンハウスで働く人々のインタビューを豊富に配信しており、オープンハウスに入社した後の働き方がとても伝わる内容になっています。
一万再生を超える動画も複数あり、多くの求職者にアプローチすることができています。
※参照元:オープンハウス採用チャンネル
成果を最大化するためのポイント
- 動画の尺は3〜5分を目安に
長すぎる動画は途中で離脱されやすいため、伝えたい情報を簡潔にまとめ、3〜5分程度で完結させることを意識しましょう。
- 冒頭の5秒で視聴者の心を掴む
視聴者は動画の冒頭数秒で、視聴を続けるかどうかを判断します。動画のテーマや最も伝えたいメッセージを最初に提示し、視聴者の興味を引きつけましょう。
- サムネイルとタイトルを最適化する
サムネイルは、動画の「顔」ともいえる重要な要素です。表情が豊かな人物の写真や、内容がひと目でわかるキャッチーなコピーを入れると、クリック率の向上が期待できます。
- CTA(行動喚起)を複数箇所に設置する
応募フォームへのリンクなどのCTAは、動画の「概要欄」上部、「固定コメント」、「終了画面」の3か所に設置することをおすすめします。これにより、視聴者がいつでも次のアクションを起こせるようになります。
運用代行サービスの活用もおすすめ
自社での運用が難しい場合、専門の運用代行サービスを活用するのも一つの有効な手段です。代行サービスは、戦略設計からコンテンツの企画・撮影・編集、さらにはYouTube SEO(検索エンジン最適化)や月次の分析レポート作成まで、一貫してサポートしてくれます。
代行サービスを利用するメリット
最大のメリットは、社内のリソースを大幅に削減できる点です。
また、プロのクリエイターが制作に関わることで動画の品質が向上し、専門家によるデータに基づいた改善提案を受けることができます。
これにより、自社の担当者は候補者とのコミュニケーションなど、よりコアな業務に集中することが可能になります。
まとめ
本記事では、「YouTube採用」の概要からメリット・課題、具体的な実践手順、そして成功事例までを網羅的に解説しました。YouTubeは、企業のリアルな魅力を伝え、転職潜在層にもアプローチできる非常に有効な採用チャネルです。一方で、継続的な運用やリスク管理、効果測定には専門的なノウハウが求められます。
まずは会社説明会の動画を1本制作してみるなど、小さな一歩から始め、自社の状況に合わせて採用活動を加速させていくことをおすすめします。
もし社内のリソース不足やノウハウ不足でお悩みの場合は、専門の運用代行サービスの活用を検討するのも一つの手です。
本サイトでは人気の運用代行サービス7社を徹底比較しています。運用代行サービスをお探しの方はぜひ参考にしてみてくださいね。